はじめに - 働きたくなるIT(1)
昨年末になるが、財団法人「社会経済生産性本部」というところから「労働生産性の国際比較 2006年版」というレポートが出ている。なぜ今頃そんな話を持ち出してきたかというと、ちょっと前にこれに関連した朝日新聞の記事を見たのと、ある会合で日本のIT投資が先進国で最低だというような話を聞いたからである。
このレポートは、各国のGDPを全就業者数で割った値を「労働生産性」として、その値を比較している。労働者一人が働いて生み出す付加価値が多いほど生産性が高くなるというわけだ。その報告では、日本の労働生産性(2004年)は59,651ドル(798万円)で、OECD加盟30カ国中第19位、主要先進7カ国間では最下位というショッキングな結果となっている。
ちなみに第1位はルクセンブルグ(90,683ドル/1,213万円)、第2位は米国(83,129ドル/1,112万円)です。
ただこれだけだと、何だ日本は非常に非効率の国なのかと思ってしまうが、こうした情報は、きちんと解析しないと間違った理解になる。ちょっと思いついたところでもいくつか解き明かすべき疑問がわいてくる。
1. 全産業にわたって労働生産性が低いのか
2. いつから低くなったのか
3. 労働生産性に与える影響因子は何か
4. 失業率が高いと労働生産性があがるのか
5. 個人の問題なのか、組織の問題なのか 等々
日本の生産性が低いのは全産業というわけではなく、低いのはサービス業や小売、建設業などで、金融や製造業は高いのである。そのなかで製造業は、OECD加盟国24カ国中第3位、主要先進国中2位となっている。製造業はここまでかなり省力化・省人化対策を実行し、人員削減を行なった結果、生産性の向上をもたらしたと考えられる。そのため、おそらくそこから溢れた人員がサービス業に流れていって、賃金低下を受け入れつつ、雇用をある程度確保することが行なわれたのではないだろうか。従って、サービス業の付加価値額はそれほど増加していないにもかかわらず就業者数の増加で生産性を悪化したと考えられる。
この労働生産性における上昇率をみると、2000年から2004年では上昇率が回復して主要先進7国中2位につけているが、その前の10年間がずっと最下位を低迷していた。まあ、あの高生産性の国であった日本は、失われた10年でその地位を失ってしまったのだ。
こうした労働生産性に影響を与える因子は何だろうか。単純に分子はGDPで、分母は就業者数だから、GDPを増やして、就業者数を減らせば生産性の数値は大きくなる。だから、日本は失業率が4.7%といちばん低いから、サービス業でもどんどん人を減らしていけば追いつくのではないかと思うかもしれませんね。ところが、そんなに簡単な話ではなく、仮にGDPはそのままで失業率をいちばん高いドイツ並みの10.5%にしたところで相変わらず最下位は変わらないのです。
ということは、朝日新聞にも書いてあるように、ざっくり言うと「生産性向上のための投資をしていない」ことと、「非正規雇用の拡大による仕事への意欲の低下」に起因するのではないだろうか。さて、これからここをどう乗り越えていくのかが勝負だ。
ただ、忘れてはいけないのは、労働生産性をあげれば、みんながハッピーになるという単純な構図ではないところに難しさがある。生産性が低くても雇用が確保できてればいいとか、無償のサービスをお互いで享有できる社会でいいとか、日本の社会の構造をどうするかに関連してくる。
こうして見ると、「労働生産性」という情報から様々なことがわかってくる。だから、浅くつかまえるのではなく、一歩踏み込んで考える“質の高い情報のさばき方”が必要になってくる。変な話、これができれば労働生産性も上がるというものだ。
ただ、少なくとも、労働生産性を向上させるIT投資はどんどん進めていってほしい。データ的にもITに投資すると生産性は確実に上がることが分かっている。
結局、「働きたくなるIT」が重要キーワードですね。ですから、このあたりのことを今後書いていこうと思う。