« ITエンジニアの育ち方(1) | メイン | サマーウォーズ »

成熟日本への進路

「成熟日本への進路」(波頭 亮著 ちくま新書)の著者は、戦略系コンサルタントである。その人が言う。「優れたコンサルとは、コンプリヘンシヴ(総括的に分かっていること)に分析し、シンプル(明快で)かつコンシステント(一貫性のある)な解決策を示すこと」であると。この本はまさにこの言通りに分かりやすい非常に優れた提言が書いてある。

国家のヴィジョンから戦略と言っても基本的には企業のものと同じなのである。だから、企業における理念、ヴィジョン、戦略、ビジネスモデルといったことを考えている身にとっては、すんなりと理解できるのである。

そして、著者の主張はほとんど同意できることばかりである。これだけ、明快に示した国家ヴィジョンと戦略がかつてあっただろうか。いままさに、いろんな人たちが民主党の政策に口をだし百家争鳴の感があるが、本でもいっているようにそれらはみなコンプリヘンシヴではなくスペシフィック(局所的であること)なものでしかない。それゆえ、混乱してしまうのである。日本人の弱いところである。

著者の主張は簡単に言うとこうである。(こうして言えてしまうのがすごい)
・ 日本はすでに成長フェーズが終わり、成熟フェーズに入ったという事実に立てば、そこから導かれる国家ヴィジョンは「国民誰もが、医・食・住を保障される国づくり」である。
・ ヴィジョンを実現するための考え方と理念としては、従来の成長戦略と景気対策一辺倒の公共財として経済政策から脱却し、分配論を軸にした経済政策に転換し、国民全員に手厚い社会保障を公共財として提供することを第一の政策目的とすべきである。
・ ヴィジョン実現のための経済政策としては、医療・介護産業を主力産業として育成・拡充し、産業構造のシフトを促進していくことが求められる。また、国民経済全体の生産性を向上させるために、教育に対する投資も拡大していくべきである。
・ その政策を実行するために、組織・制度が重要で、官僚制度改革がキーポイントである。

こうした考え方とともに具体的な施策も提示して、産業構造のシフトでは、医療・介護サービスの拡充と外貨を稼ぐ産業の育成であるとしているし、官僚機構改革のポイントは、政治=官邸/内閣が官僚の人事権を掌握することと特別会計を透明化することと言っている。非常にオーソドックスで的を射ていると思いませんか。

繰り返しますが、日本人の不得手なのは、こうして全体を俯瞰して、それを構造化・体系化し、そこから個別のコンポーネントに分解し、より具体的な策を作り出すということだと思います。これは、国家戦略みたいな大きなものから、商店の経営や個人の生き方みたいなところまで有効な思考アプローチです。

ところで、いまの政治家でここまで言える人はいるのだろうか。企業の経営者のほうがはるかに進んでいるように思う。だから、著者のようなコンサルを含めて、民間の企業でヴィジョンだとか戦略なんかを窮めた人が政治家になったほうがいいのではないだろうか。

民主党の議員さんにはぜひ読んで欲しいと思う。いや自民党の議員さんもか。(成長戦略だけじゃだめですよ)結局、著者が言っている「高福祉だからこそ自由経済」というのが正解だとぼくも思う。いまの民主も自民もここがわかっていないのだ。どちらか一方しか見るのではなく、相互のバランスが重要なのである。近頃では出色の良書である。
  

成熟日本への進路 「成長論」から「分配論」へ (ちくま新書)
posted with yusukebe.com::AmazonSearch on 2010.9.30
  • 波頭 亮
  • 新書 / 筑摩書房
  • Amazon 売り上げランキング: 2784
  • Amazon おすすめ度の平均: 4.5
    • 4 成熟社会への処方箋
    • 2 日本は成熟社会なのか?
    • 5 政治家からこんな「ビジョンとプラン」を聴きたい
    • 5 広く深く
    • 5 こういう本を待っていました
Amazon.co.jpで詳細を見る

  

トラックバック

このエントリーのトラックバックURL:
http://kamawada.com/~masanori/blog/mt/mt-tb.cgi/1546

コメントを投稿

(いままで、ここでコメントしたことがないときは、コメントを表示する前にこのブログのオーナーの承認が必要になることがあります。承認されるまではコメントは表示されません。そのときはしばらく待ってください。)

About

2010年09月30日 16:10に投稿されたエントリーのページです。

ひとつ前の投稿は「ITエンジニアの育ち方(1)」です。

次の投稿は「サマーウォーズ」です。

他にも多くのエントリーがあります。メインページアーカイブページも見てください。

Powered by
Movable Type