前回「経済的思考のセンス」を読んでのエントリーで、どうも今の日本は、高齢層での格差は縮小しているが、若年層を中心に一時的な所得格差のみならず、成果主義的な賃金制度などによる生涯所得のさらなる格差拡大が起こっており、失業・ホームレスの増加をみて人々が格差拡大を実感していることを指摘した。
そうなると、この状況をどう改善していったらいいかということになる。政府に何を望むのかといってもいい。社会制度や構造をどう再設計していくのかである。税制や社会保障を通じて所得格差を小さくすることをめざすのかどうかだ。今回参院選挙のマニフェストを見ると民主党は若年層を優遇し格差是正を図るといっているが、そこには弱者救済のための負担をだれがするのかという大きな問題が横たわっている。小泉路線の小さな政府に対する大きな政府を主張しているように見えるが、さて本当にできるかどうかだ。
まずは国民負担率を引き上げるのか、形を変えていくのかしていかないとできない。国民負担率というのは、GDPに対する租税と社会保険料負担の合計の比率である。ただ租税はある意味負担ではないが、問題は公的年金保険料で、年金は積立方式ではなく賦課方式だから、高齢化が進展する中では若い世代にとって純粋の負担になる。ここが問題なのだ。
事実、日本の個人所得税負担は低下してきている。それでも増税感を感じるのは、社会保険料が継続的に引き上げられてきたからである。減税は累進度の低下を中心に行なわれ、事実上比例税である年金保険料が引き上げられてきたことで、日本の租税体系は所得再配分機能を弱めてきた。デフレの継続で所得があまり上がらないなかで、社会保険料の引き上げが続くと、低・中所得者は増税感を感じる。こういうことなのだ。しかも、構造改革で格差を拡大する政策をとってきたのでニ重に効いているのだ。
著者の大竹さんは、具体的な対応策として、公的年金の再分配部分と所得比例部分を明確に分けることを提案している。所得再分配の役割を果たしている基礎年金の部分は、累進所得税と消費税を中心にした租税で負担し、年金給付の所得比例部分のみを保険料でまかなうかたちである。なるほど、いま消えた年金で大騒ぎだけど、こうした制度設計の見直しを大いに議論してほしい。
また、非常にいいことを言っていて、「真の国民負担」というのは、税金が課せられることで、勤労意欲が低下することから発生するのであるから、いま、高額所得者の税率引き下げによる勤労意欲の上昇効果と社会保険料引き上げによる中・低所得者の勤労意欲低下効果のどちらが大きいのかと問いかけている。
おそらく、その答えは、お金持ちが税金が高いからといって勤労意欲を下げることより、中・低所得者の増税感による勤労意欲の低下のほうが影響が大きいのであろう。勤労意欲の低下という「真の国民負担」を最小にすることこそが、税制改革・社会保障改革に求められる。
それと大きな議論のイシューとして、機会の不平等や階層が固定的な社会を前提として所得の平等主義を進めるべきなのか、機械均等をめざして所得の不平等そのものを気にしない社会をめざすのかがある。
こうした議論が、自民党と民主党で行なわれることが期待される。そしてどっちに軸足をおくのかといったスタンスの違いで2大政党体制になるというのがいいのではないでしょうか。
ということで、この「経済的思考のセンス」は非常に勉強になった一冊であった。