タイトルと同じ「経済学的思考のセンス」(大竹文雄著 中公新書)を読む。ぼくは、おもしろそうな本を見つけるのにブログで書評を書いている人の記事を参考にしている。その中に、橋本大也さんというITビジネスをやっているひとの「情報考学」というブログがあって、ここに載っている本の紹介をチェックしていて、最近この本について“とにかく面白い視点が満載で一気に読めた”と書いてあったので早速手にした。
内容は経済学的思考によって身近にある格差について論じている。ちょっと前に格差について書いたのでタイムリーな内容であった。いままで、モヤモヤしていたことがずいぶんとはっきりした。前のブログでは、格差を感じている人は一体だれなのかということと社会構造をどう設計していくかがないといけないというようなことを書いたが、まさにそれに対する答えが載っている。
まず、所得格差拡大の実感は、所得格差の統計と整合性があるのかと投げかけていて、実は様々な統計があるが気をつけないといけないと言っている。このあたりは、前に書いた「データはウソをつく」という本のことと一緒で、例えば、公的年金所得を含まない「当初所得」は適切ではないとか、単身世帯を除くと不平等度が低めに算出されるとかとなる。そして、世帯人員を調整して日本の不平等度を計算すると、95年以降はほとんどその上昇はみられないのだそうだ。
ということで、世帯形態の変化の影響が大きいのだ。たしかに80年代には4人世帯が最も普通だったのが、90年では2人世帯が最も多く、次いで単身世帯となっている。世帯規模が変化すると、世帯所得の不平等度と人々の生活水準の格差の間に乖離ができる。例えば、年収300万円の75歳の親、年収1000万円の50歳の親、年収400万円の20歳の孫がいたとすると、年収1700万円の世帯ということになる。ところが、親の年金が増えて年収400万円になったので独立し、孫の年収も500万円に増えたので単身生活を始めたといった状態になるとそれぞれの個人のレベルでみると豊かになっているにもかかわらず、世帯で測った所得では低所得世帯が増加しているように見える場合がある。
さらに、女性の働き方も変化してきている。低所得男性の配偶者は、生活水準を高めるために共稼ぎをし、高所得男性の配偶者は専業主婦になるというのが一般的であったのが、高所得男性の配偶者も高所得を得て働くというケースが増えてきた。
こうした多様な変化要素を考慮した見方が必要であるが、実は所得の不平等度は真の所得格差を反映しないのであって、最も優れた指標は、消費水準の格差であるそうだ。アメリカなんかは所得格差が大きいにもかかわらず消費格差が少ない。ところが、日本の所得格差の拡大は、消費格差の拡大と同時に発生している。同時に拡大させる要因があって、それは人口高齢化と世帯構造の変化なのである。
「全国消費実態調査」1979~99年二人以上世帯に関する年齢別の不平等度(ジニ係数)をみると、
(1) どの年も若年層よりも高齢者層の間での年齢内格差は大きい
(2) 79~94年非常に安定的
(3) 99年の不平等度はそれ以前と異なっていて、若年層が高く、高齢層で低くなっている
日本では、格差は90年代に盛んに言われるようになったが、統計的に見ると日本の所得格差が大きく上昇したのは80年代であって90年代ではないのだ。80年代の格差拡大の最大の理由は高齢化、もともと所得格差の大きい高齢層の人口に占める割合いが上昇したのである。90年代には高齢化がおさまり、また年金制度の成熟化で格差は縮小している。
こうした最近の若年層の格差拡大の原因は、フリーターの増加、少子・低成長化にともなう親からの相続や贈与の影響の増大があげられる。要するに、現時点での所得不平等だけではなく、遺産相続を通じた所得や将来賃金という将来所得の格差拡大を反映しているのである。
また、2002年のアンケート調査で、所得格差を実感しているひとは、貧困者・ホームレスの増加を認識しているひと、若年層より中高年齢層、高学歴層、失業不安をもっているひと、つまり、中高年を中心に成果主義的な賃金制度の導入による今後の賃金格差拡大予想や、失業・ホームレスの増加が、人々に格差拡大を実感させているというわけだ。
所得格差についてだいたいつかめたのでないでしょうか。じゃあ、この格差をなくすためにはどうしたらよいのか。あるいは、格差があったっていいじゃないかと考えられるのかなどについてまたあとで書くことにする。
ちなみに、著者の大竹さんは「経済学的思考センス」のあるひととは、インセンティブの観点から社会を視る力と因果関係を見つけ出す力をもったひとと定義しています。さて、皆さんは「経済学的思考センス」がおありでしょうか?
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インセンティブですね
経済学はお金をめぐる人間の“心理学”だ。
インセンティブと因果関係
