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生物的であるということ

ずいぶんと昔のことになるが、ぼくの若い頃、あるプロジェクトが終わったのでそのことについて社内報に記事を書いてくれと頼まれたことがあった。そのプロジェクトは、プラント制御システムの導入に関わるものであったが、その文章に「これからシステムはより生物的なものに進化していく」というようなことを書いた。

ところが、その時の上司にチェックしてもらったら、この“生物的な”というのがよくわからんと言われて泣く泣く削除したことがあった。そのときに使った生物的という意味は、それほど深く考えていたわけではなく、ただ生物の柔軟性に富んだ反応、全体が調和的に動くさまなどが、決まりきった動きしかできないコンピュータシステムの行く先のめざすところではないかと思ったのだ。そして、今もコンピュータシステムに関係する立場から、頭の片隅に当時の“生物的”なシステムという考えがちらっと顔を出したりしていた。

そんな思いがあったので、「生物と無生物のあいだ」(福岡伸一著、講談社現代新書)を見つけるとすぐに買ってきて読んだ。これはとてもとてもおもしろい本だ。この手の科学に関する読みものは、どうしても学術的の説明文章となり、読んでいて途中で疲れて放り投げるというのがお決まりのコースなのだが、この本は最後まで一気に読んだ。

なぜおもしろいかというと、内容もさることながらこの著者である福岡伸一の文章力がすばらしいのだ。だから、難しいこともすんなりと理解をしながら読み進むことができるのだ。ちょっと前に「フェルマーの最終定理」を読んだが、それも著者のサイモン・シンもその文章力には感心させられたが、この「生物と無生物のあいだ」も同じように、数学の代わりの分子生物学をそれに関わる何人かを登場させることで歴史的なストーリーを交えて、われわれに教えてくれる。まさに、帯に書いてある“読み始めたらとまらない 極上の科学ミステリー 生命とは何か?」ということになる。

内容は、生命とは何か?という問いから始まって、人間の分子生物学的な構造や仕組みを解き明かされていく過程を描いている。生命と言うのは、「自己複製を行なうシステム」という定義なのだそうだ。DNAの二重ラセン構造をワトソンとクリックが提示してから、生命の謎へどんどん迫っていったのである。

いちいち内容を追っかけていくわけにはいかなので、いちばん感動したことを書く。それは「秩序は守られるために絶え間なく壊されなければならない」ということである。これは、シェ-ンハイマーの発見した生命の動的な状態という概念について述べたものである。このことについて本文から少し引用する。

私たちは、自分の表層、すなわち皮膚や爪や毛髪が絶えず新生しつつ古いものと置き換わっていることを実感できる。しかし、置き換わっているのは何も表層だけではないのである。身体のあらゆる部位、それは臓器や組織だけではなく、一見、固定的な構造に見える骨や歯ですらもその内部では絶え間のない分解と合成が繰り返されている。 入れ替わっているのはタンパク質だけではない。貯蔵物と考えられていた体脂肪でさえもダイナミックな「流れ」の中にあった。 それまでは、脂肪組織は余分のエネルギーを貯蔵する倉庫であると見なされていた。大量の仕入れがあったときはそこに蓄え、不足すれば搬出する、と。同位体実験の結果は全く違っていた。貯蔵庫の外で、需要と供給のバランスがとれているときでも、内部の在庫品は運び出され、一方で新しい品物を運び入れる。脂肪組織は驚くべき速さで、その中身を入れ替えながら、見かけ上、ためている風をよそおっているのだ。全ての原子は生命体の中を流れ、通り抜けているのである。中略 私たちの生命体は、たまたまそこに密度が高まっている分子のゆるい「淀み」でしかない。しかも、それは高速で入れ替わっている。この流れ自体が「生きている」ということであり、常に分子を外部から与えないと、出ていく分子との収支が合わなくなる。

なるほど、“生命とは動的平衡の流れである”ということなのですね。このくだりは、会社にもあてはまりそうでおもしろかった。会社も法人というくらいだから人間と同じように生きているわけで、そうなると絶えず新しい息吹を吹き込みながら、停滞することなく組織の入れ替えが必要なのかもしれませんね。最初のシステムの話にしても、この動的な平衡を維持するための仕組みとしてあらねばならないと考えると、従来と少し視点を変えて見ることも大事であるような気がしたのである。

それにしても、最近はこうした分子生物学や脳科学がすごい勢いで進んできて、様々なことが解明されてきている。なんだかおそろしくなってくるが、どうしても分からないところがあるはずと思っているが、それは何なのだろうかと考え込んでしまう。

他にもおもしろい話が一杯詰まっていますが、興味のあるひとはぜひ購読してください。


生物と無生物のあいだ
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  • 福岡 伸一
  • 単行本 / 講談社 (2007/05/18)
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  • Amazon おすすめ度の平均: 5.0
    • 5 無類に面白く、美しいミステリを思わせる読み心地
    • 5 このての本は、、、
    • 5 生命の生命たる所以
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2007年07月12日 12:23に投稿されたエントリーのページです。

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