この連載は、大きな目次がないなかでとりあえず書き出しているので、脈絡のない話が続いているようですがご容赦のほどを。最後にはまとめてみようと思います。主題は、ITという道具をうまく使って知的労働の生産性と質をあげるにはどうしたらいいのかということなので、これだけは忘れないようにします。
さて、いまITを道具といったが、使う道具としてだけ捉えていればいいが、問題は目で見るものがITを通して見ることになることだ。すなわち、PCのディスプレイ、携帯のメール、テレビ画面などを見ながら世界を認識することになる。だから、バーチャルとリアルの世界という問題が生じる。
いまの若い人たちは小さいときからテレビゲームに慣れているので、ゲームで起こっていることがひょっとしたらリアルの世界でも起こると思っていやしないだろうか。最近の凶悪な少年犯罪が起こるたびに言われるが、普通の人間にとっても大なり小なりリアル世界とバーチャル世界の境界がぼやけてきているのは確かだろう。
これを会社における仕事で考えてみると、今はどこの会社にも机の上にひとり1台のPCが置かれ、それに向かって仕事をする風景が当たり前になっている。でも、これってつい最近の形態で、われわれの若いときは机の上は電卓とトレッシングペーパー(青焼きコピーをしなくてはいけないので)だけで、ときどき窓の外の景色を眺めながら、隣の人とおしゃべりをしながら仕事をしたものだ。
それが、個人にPCが配られると一日中PCのディスプレイとにらめっこだ。いったいみんな何をしているのだろうか。以前勤めていたとき、たまにフロー全体をながめることがあるが、全員がびっくりするほど一心不乱にPCを凝視しているのを目にするとある種の滑稽さを覚えることがある。そうなると、PCはホワイトカラーの生産性をあげたかどうか疑問になるが、そんな状態でもそれ以上に効果をもたらしているというのがここでのスタンスです。
さて話を戻すと、結局株のトレーダーの例を引き出すまでもなく、今はマウスのクリックひとつで多額のお金を動かしえるわけで、仕事がゲーム感覚になってしまうのではないだろうか。実際の仕事とゲームの決定的な違いは何かというと、ゲームは失敗してもリセットが効くが仕事はそれが効かないということだ。
PCのディスプレイから多くの情報が手に入り、そこで作業することであらかたの仕事がすんでしまうため、リアルな世界のことをあまり知らないことになる。筆者は以前、新入社員教育でこうしたことに関連して必ず言っていたことがある。“みなさん、山本五十六が真珠湾攻撃をするときに、実際に真珠湾を自分の目で見たかどうか、どちらだと思いますか。実は、何回か実地に足を運んでいるんです。それで、あの作戦を考えていたわけです。だから、あなたたちもたえず現場に足を運んで、そこで何が起こっているか自分の目で確かめることを忘れないでほしい”というようなことを話している。
製造業なら工場、流通業なら店舗といったように、実際にモノを作っている、販売しているところに行くと何かを感じられると思うので是非実行してもらいたいものだ。